<恋の季節?>
僕たちは野性の猫じゃない。人間社会で生きていく上では野性の世界とは別の法則やら制約というものがあって、それを当たり前のこととして受け入れてきた。その一つに「去勢」がある。人間社会ではそのことについて、いまだ悩ましい問題があるみたいだね。僕の立場としては、いわゆる「野良」と呼ばれる僕の仲間たちが人間社会で白眼視されるのは耐えられない。これは人間社会できっちりケリをつけてもらわないとね。
で、その去勢をしている僕たちは「永遠の少年」ともよばれ、俗にいう「恋の季節」がめぐってくることはない。それでも、異性に胸をときめかせることはあるんだ。人間社会でいえば「淡い恋」ってやつ。それがマロンに訪れた...。
ある日の午後だった。僕がいつものようにのんびり昼寝していると、隣にいたマロンがグーンと背伸びをして「ちょっと行ってくる」といった。起き上がるやいなやマロンは店の出入り口にむかって歩き出し、ちょうど帰るお客さんと一緒に外に出て行ってしまった。僕はマロンがいつものように「巡回」にいくものとひとり合点して、再び目をつむってしまった。
しばらくすると、マロンの「帰ったよ~」の声で目が覚めた。マロンは僕のそばに来ると毛づくろいをしながらいった。
「店を出て川辺の緑地で一休みしてたらさ、柵のむこうから一匹の女の子がやってきたんだ。」その声は幾分興奮しているように思えた。
「真っ白な長い毛の子でさ、目は青いんだ。」やっぱり興奮している。
「それでもって僕の隣に座ったと思ったら毛づくろいをはじめたんだよ。」顔はもう真っ赤だ(マロンは茶毛だけど僕にはわかる!)。
「で彼女、なんていったと思う?あなた楽楽のとこの猫でしょ?わたし、すぐ近くに越して来たの。ミントっていうのよ。よろしくねっ、だって」
うんうんと僕はうなずき、「それで?」といった。
「いや、それだけ。あとは今さっき来た柵のむこうへ行ってしまった。はじめてみる猫だったけど、僕のこと知ってるみたいだった。なんでだろ?」マロンの心はもうここにはない。
「きれいな白い毛がフワフワ風にゆれててさ、丸い青い目はキラキラしててさ、また会えるかなあ、会いたいなあ、友達になれるかなあ」
僕はそんなコロンの様子をただポカーンとみているしかなかったが、なんだかこちらまで幸せな気分になったのは事実だ。
一足早いけど「春」がマロンに訪れたってことだよね。マロンの恋の行方をこれからも見守っていくニャン。
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